これはヒッチコックの第六作にあたるが、彼自身の脚本の初の映画化として歴史的に重要な作品である。 物語は“ワン・ラウンド・ジャック”という異名で呼ばれる見世物小屋渡りのアマチュア・ボクサー、ジャック・サンダーズ(カール・ブリッソン)の強さを見せる場面から始まる。ジャックはプロのへヴィー級チャンピオン、ボブ(イアン・ハンター)の練習相手に選ばれ、安定した暮らしを得たのを機会に見世物小屋の切符売りの娘、ネリー(リリアン・ホール=ディヴィス)と結婚する。しかし彼女は、ボブに言い寄られると、チャンピオンの栄光に心を奪われて誘惑に負けてボブの愛人になってしまう。これで発奮しジャックは、修行を積んでチャンピオンの挑戦者となり、選手権試合に勝って、妻の心も取り戻す。 『リング』はボクシングのリングであると同時に、ジャックがネリーに贈った結婚指輪とダブル・ミーニングになっている。ヒッチコックはこの意味の重なりを視覚的な効果として見事に使いこなし、単純な物語を映画的快楽の豊かな泉に変えている。 |